荻原家の愉快な住人たち。第1話:朝の珈琲と、静けさを知らない住人たち。

静かな朝を淹れたかっただけなのに、荻原家では湯気まで騒がしい。


目次

プロローグ

朝のスタジオ・キッチンは、まだ静かだった。

窓から入る光はやわらかく、空気も少し冷たい。
こういう朝は、余計なことをせず、ただ珈琲を淹れるのがいい。

荻原CEOは、浅煎りの豆を取り出した。
袋を開けると、柑橘に似た明るい香りがふわりと立つ。

荻原CEO:「……今日は、軽くいこう」

豆をミルに入れ、ゆっくり回す。

ゴリゴリ、ゴリゴリ。

豆が砕ける音だけが、キッチンに響く。
この音を聞いている時間が、荻原CEOはわりと好きだった。

湯を少し冷まし、フィルターを湯通しする。
粉をならして、最初の湯をそっと落とす。

珈琲の粉が、ふわりと膨らんだ。

荻原CEO:「……うん。静かでいい朝だ」

その言葉が、いけなかった。

スタジオのリビングスペースから、電卓を叩く音がした。

カタカタカタカタカタカタ。

荻原CEO:「……静かでいい朝って、言わなきゃよかった」


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それでは、本編をお楽しみください。

登場人物紹介・荻原家の愉快な住人たち。

荻原CEO

Creative Studio OgiwaraLand のCEO。

暮らしを丁寧に整えたいのに、住人たちのボケに毎回巻き込まれる常識的ツッコミ役。

小波

何でも価値に変えようとする、歩くビジネス発想。

湯気も失敗も騒ぎも、すぐに商品化しようとする。

理橋

真顔で何でも数値化しようとする研究者タイプ。

家庭の小さな問題にも、なぜか研究施設レベルの解決策を持ち込む。

天然寺

自然の力で何とかしようとするナチュラリスト。

善意はあるけれど、持ち込む自然のサイズがだいたい大きい。

日和

どんな出来事も美しく言い換える感性派。

失敗も混乱も、日和にかかれば少し詩的になる。

占部

モノ、空気、場所の気配まで聞こえてしまう不思議な実況役。

食材や道具の声、少し先の未来を伝え、荻原家のカオスに妙な説得力を足していく。


本編:朝の珈琲と、静けさを知らない住人たち

小波:「ねぇ、荻原」

荻原CEOは、振り向く前にため息をついた。

荻原CEO:「まだ何も起きてないんだけど」

小波:「起きてるじゃない。香りが」

荻原CEO:「香りは起きてるけど、事業は起きてない」

小波は、湯気を見ていた。
正確には、湯気の向こうに存在しない売上を見ていた。

片手には電卓。
もう片方には、なぜか「朝活収益化メモ」と書かれたノート。

小波:「その珈琲、ただ飲むだけ?」

荻原CEO:「飲むために淹れてるんだよ」

小波:「もったいないわね。豆を挽く音、湯気、荻原の真剣な顔。全部まとめて売れるわ」

荻原CEO:「僕の顔を商品構成に入れないでくれ」

小波:「名付けて、『荻原式・朝の覚醒リトリート』

荻原CEO:「ただの朝ごはん前です」

小波:「一杯三万円」

荻原CEO:「珈琲の値段じゃない」

小波:「違うわ。珈琲じゃなくて、体験を売るの」

荻原CEO:「その言葉、便利すぎて怖いんだよ」

小波はすでに、荻原CEOの話を半分も聞いていなかった。
ノートに「静けさ=希少価値」と書き込んでいる。

その時、部屋の照明が少し暗くなった。

荻原CEO:「誰ですか、朝からムードを作ったのは」

スタジオのリビングスペースで、日和がうっとりしていた。

日和:「ふふ……素敵ですわ……。豆が砕かれ、湯に触れ、香りとなって立ちのぼる。これは、朝の再生の儀式ですわね」

荻原CEO:「珈琲です」

小波:「それよ!」

荻原CEO:「拾うな」

小波の目が、さらに商売の形に光った。

小波:「朝の再生の儀式。いい響きね。三万円じゃ安いわ。儀式料を入れて五万円」

荻原CEO:「値上げの理由が雑すぎる」

日和:「苦味は昨日の記憶。酸味は明日の予感。そして荻原さんの困惑は、人生という抽出液に沈む小さな影……」

小波:「最高。パンフレットの表紙に使うわ」

荻原CEO:「僕の困惑を販促素材にしないでください」

そこへ、カーテンがふわりと揺れた。

風はない。
窓も開いていない。

荻原CEOは、もう見なくても誰かわかった。

占部:「……聞こえます、聞こえます……」

荻原CEO:「今度は何が聞こえるんですか」

占部は、ドリッパーの中の粉をじっと見つめていた。

占部:「粉たちが、言っています……。『我々は、ただの粉ではない。元・豆だ』と……」

荻原CEO:「それは間違ってないけど、言い方が重い」

日和:「粉になってなお誇りを失わない豆たち……美しいですわ」

小波:「元・豆ストーリー。これは背景価値になるわ」

荻原CEO:「珈琲粉に経歴を盛らないで」

占部:「さらに、ミルも言っています……。『今朝の僕は、まだ役に立てる』と……」

荻原CEO:「ミルは普通に役に立ってます」

占部:「しかし、その未来は揺らいでいます……」

荻原CEO:「嫌な言い方をしないでください」

その瞬間、庭の方から力強い声が響いた。

天然寺:「安心してください!」

荻原CEO:「安心が遠ざかる声だ」

ズズズズズ、と床を引きずる音が近づいてくる。
天然寺が、巨大な布に包まれた何かを運び込んできた。

小波は興味津々。
日和はすでに感動している。
占部は目を閉じて、何かを受信している。

荻原CEO:「待って。珈琲にそのサイズ感はおかしい」

天然寺:「本物の珈琲には、本物の自然が必要です」

布がめくられた。

バサァッ!!

現れたのは、巨大な石臼だった。

荻原CEO:「石臼!?」

天然寺:「豆は、石で挽くべきです。大地の記憶が香りに宿ります」

荻原CEO:「手挽きミルで十分です。大地の記憶まで入れる予定はありません」

日和:「石が回り、豆が砕け、朝が古代へ戻っていく……」

小波:「大地の記憶。古代の朝。いいわね。これは単価が上がる」

荻原CEO:「古代で値上げしないで」

その時、今度は金属音がした。

カシャン。

ウィーン。

ピピッ。

理橋が、銀色の装置を押して現れた。
装置には、家庭用とは思えないほどのメーターとアームがついている。

理橋:「荻原CEO、安心してください。朝の曖昧さを数値化します」

荻原CEO:「安心できない方向から安心させに来た」

理橋:「珈琲抽出最適化装置、**『アロマ・レギュレーター零式』**です」

小波:「零式。強いわね。高級版も作れる」

荻原CEO:「作らなくていい」

理橋は、真顔で装置のパネルを操作した。

理橋:「豆の粒度、湯温、注湯速度、室内湿度、荻原CEOのまばたき回数まで解析できます」

荻原CEO:「僕のまばたきは入れないで」

理橋:「まばたきには、朝の迷いが出ます」

荻原CEO:「朝の迷いって何ですか」

日和:「まばたきとは、魂が一瞬だけ世界を閉じる行為……」

小波:「『迷えるCEOの瞬きログ』。売れるかもしれない」

荻原CEO:「売れません」

占部:「ミルが言っています……。『私は珈琲を挽く道具であって、荻原さんの心を測る道具ではない』と……」

荻原CEO:「ミルが一番まともだ」

天然寺は、石臼の横に小さな苔玉を置いた。

荻原CEO:「今度は何ですか」

天然寺:「森の湿度です」

荻原CEO:「湿度を物として置くな」

理橋:「森の湿度を測定するなら、まず郷愁係数を設定する必要があります」

荻原CEO:「郷愁係数?」

理橋:「豆が故郷を思い出す強さです」

荻原CEO:「理橋さんまで詩みたいなことを言い出した」

日和:「豆が故郷を思い出す朝……。なんて優しい残酷さ……」

小波:「故郷を思い出す豆。ギフト向けに強いわ」

占部:「豆たちは、『そこまで感動的な過去はない』と言っています……」

荻原CEO:「豆に無理なドラマを背負わせないでください」

小波は、石臼、装置、苔玉、湯気、荻原CEOの顔を順番に見た。

危険な顔だった。
完全に、何かを思いついた顔だった。

小波:「……待って。これ、全部セットにできるわ」

荻原CEO:「できません」

小波:「石臼の原始性、理橋の未来感、日和の詩、占部の豆通訳、天然寺の森の湿度、そして荻原の困惑」

荻原CEO:「最後の要素を抜いてくれ」

小波:「名付けて、『原始と未来が交差する完全没入型コーヒー・テーマパーク』

荻原CEO:「朝の珈琲がテーマパークになった」

小波:「参加者は、石臼で大地を感じ、装置で未来を浴び、豆の声を聞きながら、自分の内面を抽出するの」

荻原CEO:「珈琲を抽出してください」

日和:「内面を抽出する……。苦味の奥に、自分の輪郭が見えるのですね」

理橋:「輪郭を測るには、自己認識濃度のセンサーが必要です」

天然寺:「そのセンサーには、朝露を一滴添えましょう」

占部:「朝露が言っています……。『私は添え物ではない』と……」

荻原CEO:「朝露まで巻き込まれた」

しかし、誰も止まらない。

天然寺は石臼に豆を入れようとし、理橋は装置のセンサーを石臼に向ける。
小波は料金表を作り、日和は照明をさらに少しだけ落とす。
占部は、なぜか石臼に向かって小さくうなずいている。

荻原CEOだけが、まだ珈琲を飲めていない。

荻原CEO:「みんな、一回手を止めよう。珈琲は戦場じゃない」

小波:「戦場じゃないわ。市場よ」

荻原CEO:「もっとよくない」

日和:「市場という名の朝焼け……」

理橋:「朝焼けの色温度を記録します」

天然寺:「そこに森の風を足しましょう」

占部:「森の風が言っています……。『呼ばれていない』と……」

荻原CEO:「呼ばれてないものが多すぎる」

石臼が回り始めた。

ゴリ。

ゴリゴリ。

ゴゴゴゴゴ。

理橋の装置が、即座に反応した。

ピピピピピピ!!

理橋:「粒度にばらつきがあります」

天然寺:「豆が自由に踊っています」

日和:「踊る豆……朝の舞踏会ですわ」

小波:「舞踏会プラン。夜の部も作れるわ」

荻原CEO:「朝の珈琲から夜の部を作らないで」

占部:「粉たちは、『踊っているつもりはない』と言っています……」

荻原CEO:「でしょうね」

理橋の装置から、細いアームが伸びた。

ウィーン。

理橋:「豆の舞踏を安定化します」

荻原CEO:「舞踏って言葉、採用しちゃった」

天然寺が、石臼の横に小さな葉っぱを置いた。

天然寺:「では、安定のために森の拍手を」

荻原CEO:「葉っぱ一枚で森の拍手を表現しないでください」

日和:「葉が一枚、豆たちを見守る……」

小波:「見守りオプション。追加料金ね」

占部:「葉っぱが言っています……。『そこまで責任は持てない』と……」

荻原CEO:「葉っぱが正直」

その時だった。

装置のアームが、石臼の縁に軽く引っかかった。
石臼は少しだけ勢いを増し、近くに置かれていた理橋の説明書と、小波の料金表を巻き込んだ。

ゴリッ。

ガガガガガッ!!

バサァッ!!

珈琲豆。
説明書の端。
小波の料金表。

すべてが、なんとも言えない朝の粉になった。

部屋に、短い沈黙が落ちた。

小波:「私の料金プランが、粉に……」

理橋:「説明書の第3章が消失しました」

日和:「紙と豆の境界が溶けた朝……」

占部:「粉たちは、『責任の所在を明確にしてほしい』と言っています……」

天然寺:「大地は、すべてを受け入れます」

荻原CEO:「受け入れすぎです」

荻原CEOは、ゆっくり深呼吸した。

怒っても仕方ない。
石臼はある。
装置はある。
料金表は粉になった。
そして珈琲は、まだ一口も飲めていない。

荻原CEO:「……全員、動かないで」

珍しく、全員が止まった。
本当に、ぴたりと止まった。

荻原CEOは、まず理橋の装置の電源を切った。
次に、石臼を庭側へ移動させた。
それから、紙片と混ざった粉を丁寧に片付けた。

小波:「でも、それ、プレミアム古紙ブレンドとして……」

荻原CEO:「飲めない」

小波:「はい」

荻原CEOは、新しい豆を取り出した。

今度は、いつもの手挽きミルを使う。
余計な装置も、巨大な石も、料金プランもない。

ただ、豆を挽く。

ゴリゴリ。

ゴリゴリ。

その音は、さっきより少しだけ優しく聞こえた。

理橋:「手動ですが、落ち着いた音です」

天然寺:「森も、今は静かに見守っています」

日和:「静けさが戻る瞬間……美しいですわ」

占部:「ミルが言っています……。『やっと本来の仕事に戻れた』と……」

荻原CEO:「ミル、お疲れさま」

ようやく、珈琲が入った。

カップに注ぐと、湯気が細く立ち上がる。
軽い酸味と、やわらかい甘み。
さっきまでの騒ぎが嘘のように、香りだけは静かだった。

荻原CEOは、ひと口飲んだ。

荻原CEO:「……うん。これでいい」

誰も何も言わなかった。

小波も、理橋も、天然寺も、日和も、占部も。
なぜか全員、少しだけ満足そうだった。

その沈黙を破ったのは、誰かのお腹の音だった。

ぐぅぅぅ。

続いて、別の音。

ぐぅぅ。

さらに、もう一つ。

ぐぅぅぅぅ。

荻原CEO:「……まあ、そうなるよね」

占部が静かに目を閉じた。

占部:「聞こえます……。食パンが、言っています……」

荻原CEO:「食パン?」

占部:「『焼かれる覚悟はできている』と……」

小波:「焼きたてパン体験も追加できるわね」

荻原CEO:「追加しません」

日和:「覚悟を決めた食パン……朝の勇者ですわ」

理橋:「加熱による表面変化は観察対象として妥当です」

天然寺:「火の恵みですね」

荻原CEO:「……フレンチトーストにしよう」

その一言で、全員の顔が明るくなった。

小波:「食べるーー!!」

天然寺:「自然の恵みーー!!」

理橋:「焼成条件を確認します」

荻原CEO:「確認だけでお願いします」

荻原CEOは、卵を割り、牛乳と少しの砂糖を混ぜた。
厚めに切った食パンを浸すと、パンがゆっくり卵液を吸い込んでいく。

占部:「パンが言っています……。『しみ込む。これは、しみ込むタイプの運命だ』と……」

荻原CEO:「だいたい合ってる」

フライパンにバターを落とす。

じゅわっ。

甘く、やわらかい香りが広がる。
卵液を吸ったパンを置くと、表面がゆっくり黄金色に変わっていった。

日和:「ああ……朝が焼けていく音……」

小波:「一皿二千円で出せるわ」

荻原CEO:「出しません」

理橋:「焼き色の均一性は高いです」

天然寺:「火の力は偉大です」

皿に盛り、少しだけはちみつを垂らす。

珈琲の香り。
バターの香り。
焼きたての甘い湯気。

ようやく、朝が戻ってきた。

小波が皿を見つめながら、少し真面目な顔で言った。

小波:「でも、これだけ手間をかけるなら、利益率を考えた方がいいわね」

荻原CEOは、カップを置いた。

荻原CEO:「利益じゃなくて、朝ごはんです」

小波:「正論ね」

荻原CEO:「正論です」

全員が席についた。

カップには、やっと飲める珈琲。
皿には、黄金色のフレンチトースト。

静かな朝ではなかった。
けれど、これはこれで荻原家らしい朝だった。

荻原CEO:「それじゃあ、いただきます」

全員:「いただきまーーす!!」


エピローグ

一杯の珈琲を淹れるだけのはずだった。

それが、気づけば石臼と謎の装置と料金プランに囲まれ、スタジオ・キッチンには、珈琲の香りと、ほんの少しの紙の粉が残っていた。

静かな朝とは、少し違ったかもしれない。

けれど、焼きたてのフレンチトーストを囲んで、みんなが笑っている。

カップの中の珈琲も、思っていたより悪くない。

荻原CEOは、湯気の向こうにいる住人たちを見て、小さく息をついた。

予定通りではなかった。

静かでもなかった。

でも、こういう朝も、まあ、悪くない。

荻原家の一日は、今日も少し騒がしく始まった。

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小波:「応援も、立派な未来投資よ」

荻原CEO:「投資というより、お気持ちで大丈夫です」

日和:「そのお気持ちは、次の物語の湯気になりますわ」

占部:「カップが言っています……『無理なく、あたたかく』と……」

荻原CEO:「はい。無理のない範囲でお願いします」

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この記事を書いた人

CSO|クリエイティブ・スタジオ・オギワラランド
New Tech × Creative.
最新の生成技術で、新たな創造を形にするスタジオ。
自由な思考を、未来の価値へ。

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